「Webデザイン」って誰のモノ?「著作権」で泣かないためのアレコレ。
Webデザインの著作権
制作側「デザインの著作権は弊社に帰属しているため…」
お客さん「え!? なんで? データくれないの?」
お客のとんがった言い方に、しばし沈黙―。
「Webサイトはもちろんだけど、そのなかにあるフォトショップやイラストレーターで作ったデザイン素材も全部ちょうだいね」というリクエスト。
Web制作やパンフレットの打合せ現場で見られる光景です。
著作権について「説明不足の制作サイド」「認識のないお客サイド」のすれちがいー。
なんか曖昧な著作権
そもそも契約時に制作側がきちんと説明し、お客側もそれを理解していれば問題は起こりません。
しかし、スピード重視がもてはやされる「打合せ現場」においては、それは理想論と言える面もあります。なんかそのへん、パッパパッパと進んでいくのです。
特にフリーランスのクリエイターには、契約という概念さえなくノリで進行しているケースもあり、まだまだ日本では著作権についての理解や浸透について停滞が続いています。
いったい「Webデザイン」とは誰のモノ?
どこまでが制作側のもので、どこまでがお客さんのモノ?
ひとつひとつ紐解いていきつつ、最後に著作権トラブル回避のご提案もしたいと思います。
定義はシンプルだった
まず「Webデザインの著作権はいつ、どこで、誰に発生するのか」。
いきなり難しそうですが…
これは日本国内で定義されている「無方式主義」が適用されます。
実はこの定義、とってもシンプルなんです。
👉無方式主義とは?
登録や手続きをしなくても、制作した人に「自動的に著作権が与えられる権利」のこと。Webデザインは制作会社に著作権が発生するし、フリーランスならばデザイナー自身に付与されます。
この方式は日本に限った話ではなく、1886年スイスにて制定された「ベルヌ条約」を採用する世界150ヶ国以上の標準となっているもの。
もちろん、そのデザインが「パクりでないこと」は大前提ですが、オリジナル制作者の思想やアイディア、着想を尊重するための法律として制定されています。なお著作権は日本国内では50年、海外では70年の保護期間が設定されます。
しかし1点、認識しておかなければならないことが。
「Webデザインの《レイアウトと配色》は著作権には適用されない」
ということ。
ん、どういうコト?
👉「レイアウトと配色」は著作権外?
著作権とは「思想や感情を創作的に表現したモノ」に与えられます。そして法律上、Webのレイアウトと配色は「その創作物を表現するための手法」として位置付けられているのです。
つまり配置や配色は、単なる「手段にすぎない」ということ。
異論もあるとは思いますが、このルールのおかげで「Webデザインの配置・配色の訴訟だらけ」という混乱や悪だくみが生じない抑制にもなっています。
まず、おさえるポイントは2点
1.Webデザインの著作権は「自動的に」制作側に帰属する。
2.しかし「レイアウトと配色」に著作権は生じない。
レイアウトと配色には著作権が発生しない以上、相当に個性的なWebデザインでない限りは「パクられてもわからない」「パクった側も言い訳できる」という現実があり、オリジナルデザインの著作権の「保護」というのはないに等しいと言えるでしょう。
しかし、ひとつだけ明確なのは、クライアントにサイトを納品する際、契約をしてもしていなくても、
「Webデザインの著作権は制作側に発生している」
ということです。
しかも法的な手続きは一切必要ありません。
例えレイアウトや配色に著作権は生じずとも、サイトデザインの中には「文章」もあり「写真」もあり「フォント」もあります。
カメラマン、コピーライターなど、それぞれにオリジナルの作者がいて、それぞれに著作権が宿っています。
当然、それらを包括するウェブデザインにも著作権があるというわけです。
ここには「お客」が入る余地はありません。
つまりそのデザインを手に入れるためには「契約と対価」が必要となるのです。
それはとりもなおさず、オリジナルの創作物とは本来、安易に軽視され扱われる存在ではないということを示しています。
お客さんは神様?
しかし、いくら正論がそうであっても、これはあくまで制作サイドの話にすぎません。ここがなんともツライところ。
こと著作権の理解度や敬意において後進国である日本では、お客サイドは「細かいこと言わずにさあ」と、正面突破をしてくるケースがあります。
「お金がかからない範囲で、なんとかならない?」など、プレッシャーをかけてくることも。もし断ろうものなら、二度と発注しないような空気を出してくる担当者も少なくありません。
「それなら他社に乗り換えちゃうけど」
「もっと安いとこあるし」
「信じてたのになあ」
という空気を出してくるのです。
日本ならではの風習ではないものの、この国では「納品」「検収」というカッチリした言葉と仕組みが重んじられています。そしてこの言葉には、
《納品 = 全部お客のもの = お金払っているんだから当然》
という先入観が宿っているー。
その行き着く先が「なんだかんだ、お客さんは神様でしょ?」という思想なのかもしれません。
でも、お客に罪はないかも
とはいえお客寄りに言うならば、デザインなどに明るくない担当が「知的財産権のひとつである著作権」などに詳しい可能性は、低い。そのため、お客は安易に「Webサイトの納品=何でももらえる」と考えてしまうのです。
ということは、制作途上や納品寸前になって痛い目にあいたくなければ、制作サイドはあらかじめ著作権についての「説明不足」「認識不足」「議論回避」という姿勢を改め、簡潔な説明を用意しておくことは必要になってきます。
ノリで受注できると、そのときの空気は良いですが、口頭のみや曖昧な約束で始まると、最後にモメることになってしまいます。
かといってしょっぱなに突き放すと、角が立ってしまうのが現場でもあります。
大きなチャンスロスに
もし、お客の言われるがままに《無料で》イラストレーターやフォトショップのベクトルデータ/写真/文章などすべてのオリジナル素材を譲渡してしまった場合ー。
「これでお客に気に入ってもらえた!」と喜ぶのは余りにもおめでたいこと。
お客はそのデータでパンフレットを作り、展示会パネルに使い、名刺に流用し、社内報に利用し、さらにはユニフォームや営業車のラベルにも対価なしで使用することができるのです。
もともとは「ウェブサイトひとつ」を納品するだけの案件であったはずが、制作サイドはあらゆることに汎用が効く「ブランディング素材一式」を納品してしまうことに等しくなります。
制作サイドは、オリジナルデータを保持あるいは相応の対価で売却できてこそ、ウェブサイト納品以降の新たなオーダーを獲得することができます。
商談での「空気」や「抑圧」や「ノリ」に流され、無料でデータを渡すのはビジネスのチャンスロスに他なりません。
業界的な観点からも
また、たとえ有料でも、タダのような値段でオリジナルデータの権利を譲渡するのは、魂の安売りになるだけでなく「デザインの低価格化・無料化」を推進することになりかねないのです。
今後、案件を重ねるたびにそれが常態化していくと、いつまでも「デザインの価値」「オリジナルデータの著作権」はゼロに等しい状態が続いていきます。
そして現在はもちろん、次世代のクリエイターたちは、いつまでも「著作権が軽視された業界」で無言の悲鳴を上げ続けることにも繋がりかねません。
お客から「デザインなんてチャッチャとできるでしょ」「ついでに、データも全部ちょうだいね」と、未来永劫言われ続ける可能性があります。
そのような、業界的な観点からも、データを死守することだけが得策ではなく、データを譲渡する場合は、言いにくくてもお客の理解を得たうえで、然るべき対価にて売却するのがプロと言えるでしょう。
ホントは知ってる人もいた
一方、お客は「そもそも、著作権なんて知らない」「そんなに大切ならば、最初にきちんと説明すべきだ」という意見を持っています。
ところが、まだ未熟であった時代の筆者の経験では、「オリジナルデータの扱いは…?」「データは買い取りになるの…?」を聞きにくそうなクライアントや、なんとなく理解はしている担当者も存在しました。
そう、口には出さなくとも、なんとなく「タダではないのかもな…」と思っているお客もいるのです。ぼんやりとは「著作権ってどうなってんの?」「オリジナルデータはどうなんの?」という感覚を持っている場合もある、ということです。
しかしそのような担当者からでも、実際の打合せでは「データ、もらえたりする?」「もらえないと意味がないっていうか」と聞かれることはありました。担当者は「安く・良いものを業者につくらせる」ことで、自分の仕事ぶりを社内にアピールできます。
またそもそも、デザインなどのクリエイティブに関して「まあ、パッパとできるでしょ」という見解を持っていることもあります。
こうしてグダグダになっていくわけですが、それは今思えば、筆者の説明不足以外の何物でもないと反省します。
契約時は良い雰囲気で、うまく口頭で流し・流され曖昧に完結している部分もあった。それゆえに最後になって先方から、
「元々買い取りの予算なんて見込んでないよ」
「いまさらお金がかかるなんて会社に説明できない」
という事態になり、これまで温和であった担当者や経営者との関係に亀裂が入っていったこともありました。
これは私が若かったこともあり、自然に主導権を握られていた、とも言い換えることができます。目の前の契約を取りたいばっかりに、面倒な話をふわっと終わらせていたのが原因です。
筆者が営業として、またクリエイターとして詰めが甘かったと言わざる得ません。
権利と法律
誰に限らず、自社の商品やサービスに愛着や誇り、あるいは接触を持ち、そしてその業界ごとには何らかの法的なルールが絡んでいます。
社会的に認められているサービスであればこそ、そこには必ず「法」という拘束がついてまわります。
それはマーケットを無法地帯にしないための仕組みであり、そのルールをきちんと扱えない者は、ビジネスにおいて良いパートナーを獲得できず、すなわちビジネスにおいて顧客との関係を醸成できない結果となります。
Webがスタンダードの時代になり、人々は世界中の写真や画像、デザイン、文章や動画などを簡単に閲覧することができるようになりました。
「コピペ」なる言葉も完全に一般化し、他人のアイディアをそのまま利用することに罪の意識が薄くなってきています。
現在、先進諸国のなかでは万引きや暴動が少ないと言われる日本でありながら、反対にWeb上でのマナーのなさは世界でもトップクラスに入る可能性も否めません。「バレなきゃいい」という精神、「タダでちょうだい」という思考。著作権に対する無理解が、この根底にあるのだと考えます。
これら諸問題の改善に向け、今後何らかのアクションが必要となってくるでしょう。
というわけで、問題提起や現状分析だけしていても良くないですから、いろいろ現場で苦しんできた筆者なりに、どのような案が考えられるか、以下、現実論から理想論まで「3案」を挙げてみます。
トラブル回避「3つの提案」
1. 「データ買取 価格表」の作成
では1つ目の案を。
筆者の実体験にて効果のあった方法です。
著作権の無料譲渡やデータ売買の話で争いになる前に、明確な「データお買取り価格表」を用意します。もちろん、契約書にもその内容を記載する。デザイン1ページ、メインイメージ、バナー、写真、テキスト、イラスト、キャラクターに至るまでの価格設定を明確にしておくのです。
これは「全データ買取まで大げさではないが、部分部分で買い取りたい」というニーズにも応えることができるうえ、最悪でも「価格調整」というステージから話を始めやすい。できれば、一時的な二次使用に関しても料金設定を定めておきます。これらの手法は自社および自身の著作権へのプライドと姿勢を訴求できる点において、クライアントの人となりを見ることができるだけでなく、後進の育成にも、モンスタークライアントから身を守ることにも役立ちます。
この手法は「用意されたルールには納得しやすい国民性」を持つ日本人においては、特に有効と思いました。後出しジャンケンでもないため、お客は保留にしていても交渉の余地は残せます。「タダじゃねえぞ」ってなメッセージなわけです。
価格をみてスパッとあきらめてくれるパターンもありました。「有料ならいらない」ということは、それほど必要としていなかったとも推測できます。「あればいい」と「絶対に必要」の差はあるのだと思います。
いずれにしろ、価格表というルールがあったことで、無駄な議論や不穏な空気は発生しにくかったです。
2. 「経営層・部門長」からの警鐘
そして、2つ目の案です。
社会人になってから「著作権」の認識を高める場を設ける。制作会社はもちろん、企業の広報部門などにおいても、その経営層や部門長から「自社のビジネスに関わる著作権の教育」を継続的に行います。社員には、大好きなクリエイティブのその前に「著作意識を持たないことは職務放棄に値する」という意識付けを徹底。
プロであること、制作することに誇りを持つことは、著作権を理解することに他ならないからです。
大切な顧客に「罪な勘違い」をさせない責任、こじれる前に対応できる営業担当、著作権に詳しいクリエイターの育成こそが「経営のリスクヘッジ」につながります。
当然、起業家や事業家、フリ―ランスだって「著作権について語る」ことができなければなりません。
3. 著作権授業の「義務教育化」
そして、3つ目の案は、ちょっとスケール大きいですが。
生まれたときからスマホやタブレットがある新世代が「暴走」を始める前に「著作権に関する授業」を義務教育の段階で設けます。デザイナーのデザイン、プランナーのプラン、プロデューサーのプロデュースという有形物・無形物はもちろん、Web上の画像や写真や文章には全て「作者」がいるということを理解する教育の実施。そこには「著作権」があるということ、そしてその利用には「許可とお金」が必要になると理解する機会を小〜中学校で継続的に設ける。
実際に、社団法人「著作権情報センター」は学校で指導できるウェブ教材を配布し、その啓蒙活動を行っているとのこと。こういった取り組みを学校で「標準化・継続化」することが、このWeb時代において危機意識の醸成につながっていくと考えます。
著作権こそビジネス
センスや努力だけが、デザインやビジネスの価値を高めるわけではありません。
その根幹にある知的財産への理解、著作権への知見を深めることが、そのクリエイティブに深みを持たせ「守ること」につながっていきます。
オリジナルセンスもさることながら「作品は守られることで、唯一無二の輝きを放ち続ける」ことを忘れたくないものです。
パクりパクられ、無料譲渡され、投げ売られ―。
「著作権=無関心」が根付く無法地帯のなかで、現代のクリエイターが有する大切な権利、著作権。
死守か売却か、はたまた一部借用か。
数秒の沈黙や一言が命取りになる一進一退の現場において、この「武器」の使い方を修得するのも、ビジネスを進めるうえで大切な「技術」のひとつであると言えるでしょう。
著者:清宮 雄
フィリピン・セブ島在住。「プログラミング/英語/デザイン/ビジネス」を学ぶIT留学「アクトハウス」代表。▶ セブ島のIT留学「アクトハウス」を詳しく見る