オフショア開発の現場。日本と海外をつなぐ「ブリッジSE」というキャリア

日本国内のIT人材不足は、もはや「課題」ではなく「危機」の領域に達しています。経済産業省の試算によれば、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。この絶望的な数字を前に、日本の企業が生き残る道は一つしかありません。「国境を越える」ことです。
ベトナム、フィリピン、インド。安価で優秀なエンジニアリソースを求め、開発拠点を海外に移す「オフショア開発」は、コスト削減の手段から、事業継続のための必須インフラへと変貌を遂げました。しかし、ここで巨大な障壁が立ちはだかります。言語の壁、文化の壁、そして商習慣の壁です。
この混沌とした現場で、日本側(クライアント)と海外側(エンジニアチーム)を接続し、プロジェクトを成功に導く唯一の職種。それが「ブリッジSE(システムエンジニア)」です。
単なる通訳ではありません。単なるプログラマーでもありません。高度なITスキル、ビジネスレベルの英語力、そして異文化間のマネジメント能力を併せ持つ、市場価値極大のハイブリッド人材です。本稿では、AI時代においてさらに重要性を増す「ブリッジSE」というキャリアの正体と、そこに至るためのロジカルな道筋を解説します。
誤解だらけの「ブリッジSE」。通訳ならAIでいい
まず、世間に蔓延する誤解を正さなければなりません。「ブリッジSE=英語ができるエンジニア」あるいは「IT用語がわかる通訳」という認識は、あまりにも浅薄です。もし単に言葉を置き換えるだけなら、DeepLやChatGPTで事足ります。人間が介在する意味はありません。
言葉ではなく「仕様」を翻訳する仕事
ブリッジSEの本質的な役割は、日本語の「曖昧な要望」を、エンジニアが実装可能な「明確な論理(ロジック)」に変換することです。
日本のクライアントは往々にして、「いい感じに使いやすくして」「シュッとしたデザインで」といった、極めてハイコンテクストな指示を出します。これをそのまま英語に翻訳して現地のエンジニアに伝えたらどうなるか。彼らは困惑するか、あるいは文字通りに解釈し、想像とはかけ離れたプロダクトが出来上がります。これがオフショア開発の失敗の典型例です。
ブリッジSEは、この「行間」を読み解き、「それはデータベースの構造をどう変えることか」「UIの挙動はどう定義されるべきか」という技術的な仕様(スペック)に落とし込まなければなりません。つまり、求められているのは語学力以前に、要件定義能力と設計能力なのです。
技術への理解がない「伝書鳩」は害悪である
エンジニア経験のない通訳者がプロジェクトに入ると、悲劇が起きます。技術的な実現可能性(フィージビリティ)を判断できずに安請け合いし、現場のエンジニアを疲弊させ、最終的に納期遅延とバグの山を築きます。
コードが読めない人間に、ブリッジSEは務まりません。現地のエンジニアから「このAPIの仕様では実装できない」と反論されたとき、その技術的な妥当性を判断し、代替案を提示、あるいは日本側と交渉する。このハンドリングこそが価値なのです。アクトハウスが「プログラミング」と「英語」を不可分なものとして教える理由はここにあります。技術という共通言語を持たずして、エンジニアと対等に渡り合うことは不可能です。
日本的「阿吽の呼吸」との決別
ブリッジSEが直面する最大の敵は、言語の違いよりも「文化コンテキスト」のズレです。日本は世界でも稀に見るハイコンテクスト文化(言葉にしなくても通じる文化)ですが、開発の主要国であるフィリピンやベトナム、そして欧米はローコンテクスト文化(言葉にしたことだけが事実である文化)です。
Logic Promptとしての要件定義
ここで、アクトハウスが提唱する「Logic Prompt(論理的指示出し)」の概念が重要になります。
海外エンジニアに対しては、「察してくれ」は通用しません。
・誰が(User)
・いつ(Trigger)
・何をすると(Action)
・どうなるか(Result/Feedback)
・例外時はどうするか(Exception)
これらを漏れなく、論理的に定義する必要があります。これはまさに、AIに対して正確なプロンプトを投げる行為と同じです。曖昧さを排除し、定義を厳密にする。この思考プロセスを経なければ、オフショア開発は決して成功しません。
ブリッジSEとは、日本的な情緒的な要望を、グローバル標準の論理的な命令セットに書き換える「コンパイラ(翻訳プログラム)」のような存在と言えるでしょう。この能力は、単に英語が話せるだけの帰国子女や、国内でしか開発経験のないベテランエンジニアには持ち得ない、特殊かつ希少なスキルセットです。
ブリッジSEの年収基準と圧倒的な将来性
市場原理の話をしましょう。給与とは、その人材の「希少性」と「代替不可能性」によって決定されます。
通常のプログラマーは、日本国内にも多数存在します。英語ができるだけの人材も、それなりにいます。しかし、「技術がわかり(コードが書ける)」「ビジネス英語で交渉ができ」「プロジェクトマネジメントができる」人材は、砂漠の砂金のように希少です。
単価を押し上げる「掛け算」の法則
一般的なエンジニアの単価相場が決まっている中で、ブリッジSEの報酬が跳ね上がるのは、彼らが「エンジニア」と「コンサルタント」と「通訳」の3人分の役割を1人でこなすからです。
企業からすれば、コミュニケーション不全でプロジェクトが炎上し、数千万円の損失を出すリスクを考えれば、優秀なブリッジSEに高額な報酬を支払うことは極めて合理的で安上がりな投資です。フリーランスであれば月単価100万円を超える案件は珍しくありませんし、正社員であればCTO(最高技術責任者)やVPoE(エンジニア組織責任者)への昇進ルートが約束されたポジションと言えます。
また、働く場所を選ばないのもこの職種の特権です。日本の仕事を請けながら物価の安い東南アジアで優雅に暮らすことも、完全フルリモートで世界を旅しながら働くことも、ブリッジSEのスキルセットがあれば現実的な選択肢となります。
[ >> ブリッジSEへの最短ルート。アクトハウスへLINEで質問 ]
AI時代に生き残る「調整力」
AIがコードを書くようになれば、下流工程のプログラマーの仕事は減るでしょう。自動翻訳が進化すれば、単純な通訳の仕事も消滅します。しかし、文化や文脈の異なる人間同士の間に入り、利害を調整し、チームの熱量を維持してゴールへ導く「人間臭いマネジメント」は、最後までAIには代替されません。
ブリッジSEが担うのは、まさにこの「AIが苦手とする領域」です。技術と人間、日本と世界、論理と感情。これらを繋ぐハブとしての能力は、テクノロジーが進化すればするほど、その価値を高めていきます。
アクトハウスが「擬似オフショア」の実験場になる
では、どうすればブリッジSEになれるのか。独学でプログラミングを学び、英会話スクールに通えばなれるのか。答えはNOです。必要なのは「実戦」での摩擦熱だからです。
アクトハウスの環境は、まさに「擬似オフショア開発」の現場そのものです。セブ島という異国の地で、生活習慣の異なる同期たちとチームを組み、慣れない英語とプログラミング言語を駆使して課題に取り組む。そこには、日本にいては決して味わえない「ままならなさ」があります。
180日間の「摩擦」が人を育てる
アクトハウスは、快適な学習環境を提供しません。むしろ、意図的に高いハードルを課します。後半の「実務案件」では、クライアントからの厳しい要望に対し、チームで最適解を出さなければなりません。
「伝わったと思っていた仕様が伝わっていなかった」「メンバーの進捗が遅れている」「技術的な解決策が見つからない」。こうしたトラブル(摩擦)こそが、ブリッジSEとしての筋肉を育てます。教科書通りの成功体験ではなく、泥臭いトラブルシューティングの経験数。これこそが、現場に出た時の即戦力としての自信を裏打ちします。
英語の授業(English Dialogue)においても、単に流暢さを競うのではなく、「どう言えば誤解なく伝わるか」「どうロジックを組めば相手が動くか」という、実務的なコミュニケーション能力を徹底的に磨きます。
ビジネス視点がなければ、ただの調整役で終わる
さらに重要なのが「ビジネス」の視点です。ブリッジSEは、クライアントのビジネスゴール(KGI/KPI)を理解していなければなりません。「なぜこの機能を実装するのか」「コストに見合う効果はあるのか」。
アクトハウスでは「Marketing/Strategy」のカリキュラムを通じて、経営者視点を養います。単に仕様書通りに作るのではなく、「この仕様の方がコストを抑えつつ、目的を達成できます」と提案できるエンジニア。これこそが、クライアントが真に求めているパートナーであり、アクトハウスが輩出したい人材像です。
言葉、技術、そしてビジネス。この3つの武器を同時に磨くことができる場所は、世界中を探してもそう多くはありません。アクトハウスは、その数少ない「ブートキャンプ」です。
2030年の主役になるか、AIに代替されるか
これからの時代、日本のIT業界でキャリアを築くなら、選択肢は2つです。国内の狭い市場でAIと価格競争をするか、世界を舞台にAIを使いこなし、人と技術を繋ぐ司令塔になるか。
ブリッジSEというキャリアは、決して楽な道ではありません。常に板挟みになり、高いプレッシャーに晒されます。しかし、そこには圧倒的な成長と、世界中どこでも生きていける自由があります。
「英語が話せるようになりたい」という低次元な目標は捨ててください。「英語と技術で、ビジネスを動かす」。その覚悟が決まった人だけ、アクトハウスの門を叩いてください。私たちは、本気で世界へ打って出るあなたを、全力で支援します。
著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成に従事。

















