契約書を甘く見るな。トラブルを未然に防ぐための法務知識。

フリーランスやクリエイターとして独立した直後、多くの人が陥る典型的な失敗パターンがあります。それは、技術不足でもデザインセンスの欠如でもありません。「口約束」で仕事を受け、泥沼のトラブルに巻き込まれることです。

「知り合いの紹介だから」「いい人そうだから」「細かいことは後で決めよう」。これらの言葉は、ビジネスの世界において死亡フラグと同義です。契約書を交わさずに業務を開始することは、命綱なしで断崖絶壁を登るような自殺行為に他なりません。

しかし、日本の教育、特に一般的なプログラミングスクールやデザインスクールでは、この「法務」について驚くほど教えません。コードの書き方は教えても、未払いの防ぎ方は教えないのです。結果、多くの新人が「やりがい搾取」の犠牲となり、疲弊して市場から去っていきます。

アクトハウスでは、契約書を「最強の武器であり、最後の盾」と位置づけています。AI時代、コードやデザインが自動生成されるようになっても、最終的な責任の所在と権利関係を定義するのは人間の仕事です。本稿では、クリエイターが自分の身を守り、プロとして対等に戦うための法務知識と、アクトハウスの実務カリキュラムにおける契約のリアルについて解説します。

「契約書がない」状態で起こる地獄

まず、契約書が存在しない、あるいは内容が曖昧な場合に起こりうる「地獄」をシミュレーションしてみましょう。

①無限修正地獄:

「なんかイメージと違う」という主観的な理由で、何十回もの修正を命じられる。契約で「修正回数」や「検収基準」を定めていないため、断る根拠がない。

②仕様追加(スコープクリープ):

当初はLP制作だけだったはずが、「ついでにこのバナーも」「お問い合わせフォームも」と、なし崩し的にタダ働きを強要される。

③入金遅延・未払い:

「来月末に払う」と言われていたのに振り込まれない。催促すると「まだプロジェクトが終わっていないから」と支払いを拒否される。

④著作権トラブル:

納品したデザインデータを勝手に流用され、別のグッズや広告に使われる。「お金を払ったんだから全部俺のものだ」とクライアントは主張する。

これらは決して稀なケースではありません。日常茶飯事です。そして、これらのトラブルが発生した時、契約書がなければ、あなたは法的に極めて不利な立場に置かれます。裁判をするにもコストと時間がかかり、泣き寝入りせざるを得ないのが現実です。

最低限押さえるべき3つの条項

弁護士になる必要はありませんが、自身のビジネスを守るための「最低限の条項」は、HTMLタグを覚えるよりも先に頭に叩き込んでおくべきです。

①業務範囲(Scope of Work)

「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」を定義することが重要です。「Webサイト制作一式」という書き方は危険すぎます。「トップページのデザインとコーディング、下層ページ5ページまで。サーバーアップロードをもって納品とする。素材撮影やライティングは含まない」と具体的に記述することで、不当な追加要求をブロックできます。

②著作権の帰属(Intellectual Property)

ここが最も揉めるポイントです。原則として、著作権は「作った人」に帰属します。しかし、クライアントは「お金を払ったから著作権も移転される」と考えがちです。

納品と同時に著作権を譲渡するのか、しないのか。譲渡する場合、著作者人格権(勝手に改変されない権利)はどう扱うか。特にWeb制作において、デザインデータの元データ(FigmaやPhotoshopデータ)を引き渡すかどうかは、別料金設定にするなどの戦略が必要です。

③支払条件と検収(Payment & Acceptance)

「納品後」に支払うのか、「検収後」に支払うのか。この違いは資金繰りに直結します。また、検収期間(納品してからチェックする期間)を「1週間以内」などと区切ることも重要です。そうしないと、クライアントが忙しいという理由でいつまでも検収されず、永遠に請求書が出せないという事態に陥ります。

これらの知識は、書籍で学んでも実感が湧きにくいものです。しかし、実際に痛い目を見る前に習得しなければなりません。もし、あなたが実践を通してこれらの「ビジネスの防具」を身につけたいと願うなら、座学だけでなく実務を経験できる環境を選ぶべきです。

守りを知ることは、攻めるための自信に繋がります。

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■請負契約と準委任契約の違いを理解せよ

IT・クリエイティブ業界で生きるなら、「請負(うけおい)」と「準委任(じゅんいにん)」の違いを理解していないのは致命的です。

 

①請負契約:
「仕事の完成」を約束するもの。バグがあれば直す義務(契約不適合責任)があり、完成しなければ報酬はもらえない。成果物ベース。

②準委任契約:
「事務処理を行うこと」を約束するもの。完成しなくても、適切に業務を行えば報酬が発生する。タイムチャージやコンサルティングに近い。

 

初心者は安易に「請負」で契約しがちですが、開発難易度が高い案件や、要件が定まっていない案件で請負契約を結ぶと、リスクがすべて受注者にのしかかります。アクトハウスの講義では、案件の性質を見極め、どちらの契約形態を提案すべきかという「交渉のカード」の切り方も学びます。

アクトハウス「稼ぐ100日の実務」での契約実践

アクトハウスの後半3ヶ月の実務期間では、生徒たちがチームを組み、本物のクライアントと対峙します。ここで案件の受注状態によっては発生しうるのが「契約の締結」です。

もし自分の案件に契約書が発生しない、システム上での受注だったとしても。そこにはそのシステム上の契約が存在します。「今回の案件は画像素材がクライアント支給だから、著作権侵害のリスクヘッジ条項を確認しよう」「納期がタイトだから、遅延損害金の上限を見ておこう」といった戦略的な視点が必要です。

もちろん、クライアントから契約書の内容について修正を求められることもあります。その際に、「なぜこの条項が必要なのか」を論理的に説明し、相手を納得させる経験。これこそが、ビジネステック人材に求められる「Marketing/Strategy」のスキルです。

学校の課題であれば、先生が評価して終わり。しかし、ビジネスでは契約書が全てです。在学中に、メンターというセーフティネットがある状態で、ヒリヒリするような契約交渉を経験しておくこと。これが、卒業後に「騙されないフリーランス」として生き残るためのワクチンとなります。

■契約書は「信頼の証」である

「契約書を交わしたいと言うと、相手を信用していないと思われるのではないか」と不安に思う人がいます。それは大きな間違いです。

プロフェッショナルにとって、契約書は「お互いの期待値を調整し、トラブルを未然に防ぐためのコミュニケーションツール」です。詳細な契約書を提示できるということは、「私は自分の仕事に責任を持ち、あなたのビジネスを真剣に考えている」というメッセージになります。

逆に、「契約書なんてなくていいよ」というクライアントは、クリエイティブを軽視しているか、搾取する気満々のどちらかです。契約書を提示して嫌な顔をする相手とは、そもそも取引すべきではありません。契約書は、良いクライアントを見分けるリトマス試験紙の役割も果たすのです。

法務知識は、デザインやコードと同等のスキル

AIが進化すれば、契約書のドラフト作成も自動化されるでしょう。しかし、「この条項が自社にとって有利か不利か」「このクライアントの要望をどう法的文書に落とし込むか」を判断するのは、あなたの仕事です。

「アクトハウス」のコンセプトは、単なる制作スキルの習得ではありません。ビジネスを動かすための総合力です。

プログラミング(Logic Prompt)ができ、デザイン(Art&Science)が描け、英語(English Dialogue)が話せても、契約(Strategy)で失敗すれば、全ての努力は水泡に帰します。

自分の才能を安売りしないために。

理不尽な要求に「No」と言うために。

そして、クライアントと対等なパートナーシップを築くために。

法務知識という名の「盾」を装備してください。甘い幻想を捨て、プロとしての現実を直視する覚悟があるなら、私たちは全力であなたをサポートします。

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著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成に従事。

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