フォント選びで印象は決まる。可読性と世界観を両立するタイポグラフィ。

Webサイトやプレゼン資料を見たとき、「内容はまともなのに、なぜか素人っぽくて信頼できない」と感じたことはありませんか? その違和感の正体は、十中八九「フォント(書体)」にあります。
多くのビジネスパーソンや初心者のクリエイターは、写真や配色にはこだわりますが、フォント選びに関しては驚くほど無頓着です。「PCに入っているメイリオでいいか」「なんとなく可愛らしいからこのフォントで」といった思考停止が、ブランドの品格を音を立てて崩しています。
アクトハウスでは、タイポグラフィ(文字の体裁を整える技法)を、単なる装飾技術とは教えません。それは、ブランドの「声色(トーン)」を決定づける最重要のインターフェースであり、ユーザーに情報を「読ませる」ための機能的なUX設計です。
スーツを着て謝罪するのと、アロハシャツを着て謝罪するのとでは、言葉が同じでも受け取られ方が全く異なるように、フォント選び一つで、あなたのビジネスは「信頼できるパートナー」にも「怪しい詐欺師」にも見えてしまいます。
本稿では、感覚的な「好き嫌い」を排除し、可読性(読みやすさ)と世界観(ブランディング)を両立させるための、戦略的タイポグラフィ論について解説します。
フォントはブランドの「声」である
まず認識すべきは、文字情報には「言語的意味」と「視覚的意味」の2つがあるということです。
「信頼」という文字が書かれていても、それがポップな丸文字で書かれていれば、脳は「軽い」「安っぽい」という視覚的意味を優先して処理します。
つまり、フォント選びとは、ブランドが顧客に語りかける際の「声のトーン」を選ぶ行為そのものです。
・明朝体(Serif): 「大人びた、真面目な、伝統的な、繊細な声」。高級ブランド、老舗旅館、新聞、文芸誌などが採用します。権威や信頼を醸成したい場合に有効です。
・ゴシック体(Sans Serif): 「元気な、現代的な、機能的な、親しみやすい声」。IT企業、スタートアップ、スマホアプリ、交通標識などが採用します。可読性が高く、デジタルデバイスとの相性が抜群です。
もしあなたが、最先端のAIテック企業のサイトを作ろうとしているのに、伝統的な筆文字フォントを使えば、ユーザーは「時代遅れ」という印象を持ちます。逆に、京都の老舗料亭のサイトに、幾何学的なモダンフォントを使えば、「趣がない」と敬遠されます。
「何を語るか」の前に、「どんな声で語るか」。この設定を間違えれば、どんなに優れたコピーライティングも、ノイズとして処理されてしまいます。
Webにおける「可読性」という正義
紙の時代とWebの時代で、タイポグラフィの常識は大きく変わりました。Web、特にスマホ全盛の現代において、最優先されるべき正義は「可読性(Readability)」と「視認性(Visibility)」です。
スマホの小さな画面、移動中の揺れる車内、太陽光の反射。こうした悪条件下でも、ストレスなく情報を脳に届けなければなりません。ここで重要になるのが、「システムフォント」と「Webフォント」の使い分けという技術的な判断です。
かつては、ユーザーの端末に入っているフォント(システムフォント)で表示するのが一般的でした。Windowsなら「メイリオ」や「游ゴシック」、Macなら「ヒラギノ角ゴ」。これなら読み込み速度は爆速ですが、OSによって見た目が変わり、ブランドの世界観を統一できません。
そこで登場したのが「Webフォント(Google FontsやAdobe Fontsなど)」です。サーバーからフォントデータを読み込むため、どの端末でも同じ美しい書体を表示できます。
しかし、これには「表示速度の低下」というリスクが伴います。日本語フォントは文字数が多く、データ容量が重いため、ページの読み込みが遅くなり、SEOや離脱率に悪影響を与える可能性があります。
ここで求められるのが、ビジネステック的な経営判断です。
「ブランドの世界観を優先して、多少重くてもWebフォント(Noto Sans JPなど)を使うか」
「UX(速度)を最優先して、システムフォントで妥協するか」
「あるいは、見出しだけWebフォントにし、本文はシステムフォントにするハイブリッド構成にするか」
アクトハウスのカリキュラムでは、単に美しいフォントを選ぶだけでなく、こうした「パフォーマンスと表現のトレードオフ」を理解した上で、最適な実装解を導き出す能力を養います。
「行間」と「文字詰め」に神は宿る
プロとアマチュアのデザインを見分ける決定的なポイント。それは「余白」の扱いです。タイポグラフィにおいては、「行間(Line Height)」と「文字間(Letter Spacing / Kerning)」がそれに当たります。
デフォルトの設定のまま文字を流し込むのは、料理で言えば「素材をそのまま皿に乗せただけ」の状態です。プロは、そこに「食べやすさ」という味付けを施します。
■行間(line-height)
Webテキストの黄金比は、文字サイズの「1.5倍〜1.8倍」と言われています。これより狭いと息苦しくて読めず、広いと行のつながりを見失います。
ターゲットが高齢者なら広めに、高級感を出したいならあえて広めに取るなど、ターゲットと目的に応じて0.1単位で調整します。
■文字間(letter-spacing)
見出し(タイトル)は、少し詰め気味にすることで、力強さと塊感が出ます。逆に、本文や小さな注釈は、少し広げることで可読性が上がります。
特に日本語のフォントは、ひらがな、カタカナ、漢字で文字の密度が異なるため、「プロポーショナルメトリクス」などのCSSプロパティを活用して、視覚的な均整をとる必要があります。
「誰もそこまで見ていない」と思うかもしれません。しかし、ユーザーは無意識下で「なんとなく読みやすい」「なんとなく美しい」と感じ取ります。この「なんとなく」の積み重ねが、ページ滞在時間を延ばし、最終的なコンバージョン率(CVR)を押し上げるのです。
もしあなたが、自分の作ったデザインや資料に「プロっぽさ」が足りないと悩んでいるなら、原因はフォントの選び方や、1ピクセルの行間のズレにあるかもしれません。細部に宿る神を見つける目を養いましょう。
「和欧混植」の美学と難しさ
日本のデザイナーを悩ませる最大の課題が、日本語(和文)と英語(欧文)が混在するテキストです。
一般的に、日本語フォントに含まれている英数字は、日本語に合わせて作られているため、欧文フォント単体に比べると美しさに欠ける場合があります。
そこでプロが行うのが「和欧混植(わおうこんしょく)」です。漢字・ひらがなは日本語フォント、英数字は欧文フォントを指定し、合成して表示させる高度なテクニックです。
CSSで font-family を指定する際、欧文フォントを先に記述することでこれを実現します。
例:font-family: “Helvetica Neue”, “Hiragino Kaku Gothic ProN”, …
欧文の「Helvetica」の機能美と、和文の「ヒラギノ」の安定感。これらを組み合わせることで、グローバル感と可読性を両立させた、洗練されたタイポグラフィが完成します。
ただし、フォントによってベースライン(文字の底辺)の高さやサイズ感が異なるため、微調整が必要です。この面倒な調整を厭わない姿勢こそが、クリエイティブへの敬意であり、プロの仕事です。
ユニバーサルデザインという社会的責任
最後に、現代のビジネスにおいて無視できないのが「ユニバーサルデザイン(UD)」の視点です。
高齢化社会や、視覚に障がいを持つ人々への配慮は、企業の社会的責任(CSR)であると同時に、市場を広げるための戦略でもあります。
「UDフォント」と呼ばれる、誤読しにくく(「濁点」や「半濁点」が判別しやすいなど)、可読性の高いフォントを採用する企業や自治体が増えています。
オシャレさや奇抜さだけでなく、「誰にとっても読みやすいか」というアクセシビリティの視点を持つこと。これも、公共性の高いWebサイトやアプリを構築する上では必須の知識となります。
結論:文字は「読む」ものであり「見る」ものである
タイポグラフィは、デザイン(Art)であり、同時に情報設計(Science)です。
美しいだけでもダメ、読めるだけでもダメ。その両方が高度にバランスした時に初めて、文字は「メッセージ」としてユーザーの心に刺さります。
たかがフォント、されどフォント。
あなたの選んだその書体は、あなたのブランドの魅力を正しく「代弁」してくれていますか?
アクトハウスでは、Figma上の操作だけでなく、CSSによる実装、そしてその背後にあるマーケティング戦略までを一気通貫で学びます。
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著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成に従事。

















