良いデザインを模写せよ。「TTP(徹底的にパクる)」から始まる上達論

「自分らしい、オリジナリティのあるデザインを作りたい」
デザインの勉強を始めたばかりの初学者が、最も口にしやすく、かつ最も危険な言葉がこれです。断言しますが、基礎のない人間が振りかざすオリジナリティなど、プロから見れば「ただの崩壊」に過ぎません。
ピカソでさえ、初期は巨匠たちの絵画を徹底的に模写しました。スティーブ・ジョブズもまた、優れたアイデアを盗むことを恥じませんでした。偉大なクリエイターたちは皆、模倣というプロセスを経て、独自のスタイル(守破離)へと到達しています。
WebデザインやUI/UXの世界において、最短でプロレベルに到達するための唯一の解。それが「TTP(徹底的にパクる)」です。
言葉の響きは悪いかもしれませんが、これは剽窃を推奨しているわけではありません。既存の優れたデザインをピクセル単位でトレースし、その裏側にある「論理(Logic)」と「法則(Science)」を骨の髄までインストールする行為です。
本稿では、アクトハウスがクリエイティブ教育の根幹に置く「模写」の重要性と、単なるコピーで終わらせず、自らの血肉に変えるための正しい学習メソッドについて解説します。なぜ、独学者のデザインはいつまでも素人くさいのか。その答えがここにあります。
初心者の「オリジナリティ」は、百害あって一利なし
デザイン初学者が陥る最大の罠は、インプットが枯渇した状態でアウトプットしようとすることです。
脳内に「良質なデザインのデータベース」がない状態でひねり出したアイデアは、独りよがりな思いつきに過ぎません。余白の取り方は不均一、配色は目がチカチカする、フォントの選び方はトンマナに合っていない。これらは全て、先人たちが築き上げた「デザインの定石」を知らないことから生じる事故です。
プロのデザイナーは、ゼロからアイデアを生み出しているわけではありません。脳内に蓄積された膨大な「優れたデザインのパターン」から、クライアントの課題に最適なものを引き出し、組み合わせています。
つまり、初心者がやるべきは「作る」ことではなく、徹底的に「真似る」ことで脳内の引き出しを増やすことです。英語でプログラミングを学ぶスクールや、ツールの操作方法だけを教える動画教材では、この「デザインを見る目」を養う工程が抜け落ちています。Figmaの操作を覚えても、何をどう配置すれば美しいかを知らなければ、高性能な筆を持っているだけの子供と同じです。まずは、自分の「センス」という曖昧なものを捨て、プロの基準をインストールすることからすべては始まります。
ピクセルのズレを許さない。「神は細部に宿る」を体感せよ
アクトハウスのカリキュラムにおいて、デザイン学習の初期は「ピクセルパーフェクト」な模写を徹底します。
見本となる優れたWebサイトを、Figma上で下敷きにし、文字のサイズ、行間、余白、画像の配置などを、1pxの狂いもなく再現するのです。やってみると分かりますが、初心者の目は驚くほど「節穴」です。「だいたい同じ」に見えても、重ねてみると余白が5px違ったり、フォントのウェイトが一段階違ったりします。
この「ズレ」こそが、プロとアマチュアの決定的な差です。プロのデザインには、すべての余白に意味があります。「近接の原則」に基づき、関連する要素は近づけ、異なる要素は遠ざける。この論理的な構造(Science)を、手を動かして体感することで初めて、「なぜここに余白が必要なのか」が腑に落ちます。
「TTP」とは、単に見た目を似せることではありません。プロデザイナーの呼吸、こだわり、そして意思決定の痕跡をなぞる行為です。この地道なトレーニングを経ずに、「なんとなく」でデザインしているうちは、いつまで経っても「素人っぽさ」から抜け出すことはできません。
模写は「写経」ではない。「構造解析」である
ただし、何も考えずに手を動かすだけの模写は、時間の無駄です。それは単なる作業であり、学習ではありません。
効果的なTTPには、「Logic Prompt(論理的思考)」が不可欠です。「なぜ、このデザイナーはここの文字色をグレーにしたのか?(真っ黒だとコントラストが強すぎて目が疲れるからではないか)」「なぜ、このボタンは角丸なのか?(親しみやすさを演出するためではないか)」
このように、一つひとつの要素に対して「Why」を問い続け、作者の意図を逆算(リバースエンジニアリング)しながら模写すること。これこそがアクトハウス流のデザイン学習です。
表面的なレイアウトをコピーするのではなく、その裏にある「情報設計」と「マーケティング戦略」をコピーする。そうすることで、ただの模写が、ハイレベルなケーススタディへと昇華します。
独学では、どうしても「ツールが使えるようになった=デザインができるようになった」と錯覚しがちです。しかし、Figmaはあくまで道具に過ぎません。重要なのは、その道具を使って何を描くかという「脳のOS」をアップデートすることです。
前半では、模写を通じたインプットの重要性を説きました。しかし、インプットだけではプロにはなれません。後半では、TTPで得た知識を、いかにして「実務」というアウトプットの場で爆発させるか、そしてオリジナリティが生まれる瞬間についてお話しします。
「パクリ」の集合体が、最強の「オリジナル」になる
「1人から盗めば剽窃だが、10人から盗めば研究になる」。これはクリエイティブの世界における公然の秘密です。
TTP(徹底的にパクる)の真髄は、単一のソースをコピーすることではなく、複数の優れたソースから要素を抽出し、再構築(編集)することにあります。
例えば、レイアウトはA社のサイトから、配色はB社のアプリから、フォントのあしらいはC社の雑誌から学ぶ。これらを論理的(Logic)に組み合わせ、クライアントの課題解決(Solution)という文脈に合わせて最適化した時、それはもはやパクリではなく、あなたの「オリジナルな提案」になります。
プロフェッショナルとは、ゼロから無を生み出す魔法使いではありません。脳内に膨大な「成功パターンのライブラリ」を持ち、状況に応じて瞬時に最適な引き出しを開けられる「編集者」です。アクトハウスの180日間で目指すのは、このライブラリの構築です。独学で数個のサイトを作った程度では、この引き出しは絶対に埋まりません。圧倒的な量のインプットと、それを実務でアウトプットする試行錯誤だけが、あなたのデザインの解像度を高めます。
Dribbbleを閉じて、売れているLPを見よ
デザインの模写をする際、多くの人が「Dribbble」や「Pinterest」にある、見た目が綺麗なだけのコンセプトアートを選びがちです。しかし、ビジネスで勝ちたいのなら、見るべき対象が違います。
あなたがTTPすべきは、実際に市場で成果を上げている企業の「ランディングページ(LP)」や「アプリのUI」です。
なぜ、そのLPは泥臭いデザインなのに売れているのか?
なぜ、Amazonの購入ボタンはその色なのか?
そこには、見た目の美しさ(Art)を超えた、行動経済学とマーケティングの緻密な計算(Science & Strategy)が隠されています。「売れるデザイン」を模写することで、あなたの脳には「美意識」だけでなく「商売の感覚」がインストールされます。
英語でプログラミングを学ぶことや、表面的なツールの使い方に終始するスクールでは、この「ビジネス直結のデザイン」を学ぶ視点が希薄です。しかし、クライアントが求めているのは、賞を取るデザインではなく、商品を売るデザインです。この本質を理解した上でTTPを行えるかどうかが、稼げるデザイナーへの分水嶺となります。
型破りは、型があるからこそ成し得ること
武道や芸事には「守破離(しゅはり)」という言葉があります。まずは師の教えや型を徹底的に守り(模写)、次にそれを破り(応用)、最後に離れて独自の境地(オリジナル)に至る。
デザインも全く同じです。基礎となる「型(優れたデザインの法則)」を身体に叩き込んでいない人間が、型を破ろうとしても、それは「型破り」ではなく、単なる「形無し」です。
本当のオリジナリティとは、TTPを極め、型を習得した後に、どうしても滲み出てしまう「その人らしさ」のことです。それは意図して作るものではなく、圧倒的な量の修練の結果として残る「澱(おり)」のようなものです。
AIが台頭する時代、表面的な模倣はAIが秒速でこなします。しかし、複数の文脈を理解し、ビジネスの戦略に乗せて「編集」し、そこに人間としての「意思」を込める行為は、人間にしかできません。
アクトハウスでの半年間は、徹底的な模写(守)から始まり、実務案件での応用(破)を経て、卒業後の自立(離)へと続く、圧縮された成長のプロセスです。
「自分らしさ」なんて曖昧な言葉に逃げず、まずは巨人の肩に乗る覚悟を決めてください。
徹底的にパクり、徹底的に学び、その先にあるあなただけの景色を見に行きましょう。
著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成に従事。

















