2025.12.02
アクトハウスに卒業制作はない。商用案件だけが証明する「実務経験」の価値
卒業制作ではなく実際のビジネスにこだわる理由
「スクールを卒業するときには、どんなポートフォリオができるのだろう」
Webデザインやプログラミング、マーケティングの学習を検討するとき、多くの人が「卒業制作」の存在を意識します。自分が学んできた証として、ひとつの作品を作り上げる。それは学習の節目として非常に有意義であり、身につけた技術を整理する貴重な機会です。
しかし、IT留学の「アクトハウス」には、一般的なスクールにあるような「卒業制作」というカリキュラムは存在しません。
その代わりに用意されているのが、留学の後半100日間にわたって展開される「商用案件(実際のクライアントワーク)」です。
なぜアクトハウスは、卒業制作ではなく実際のビジネスにこだわるのか。そこには、未経験から最短で「現場で求められる人材」へとステップアップするための、明確なキャリア設計の思想があります。本稿では、卒業制作と商用案件の役割の違い、そして実務経験を先取りすることの価値について解説します。
卒業制作と商用案件は何が違うのか
スクールで課される「卒業制作」の多くは、架空のカフェサイトや、オリジナルのWebアプリケーションなど、自分でテーマを決めて自由に制作するスタイルが一般的です。
卒業制作には、以下のような大きなメリットがあります。
自分の好きなデザインや、試してみたい技術を自由に盛り込める
失敗しても誰にも迷惑がかからない安全な環境で、ゼロから形にする達成感を得られる
習得した基礎知識がどこまで定着しているかを自己確認できる
いわば卒業制作は、これまで学んだインプットを総動員して行う「最高の習得確認」の場です。
一方で、アクトハウスが導入している「商用案件」は、アプローチの方向性が全く異なります。商用案件とは、実在するクライアント(企業や個人事業主)から実際に仕事を受注し、要件をヒアリングし、納品して報酬をいただくという「本物のビジネス」です。
この2つの決定的な違いは、「制作の起点に『他者(顧客)』が存在するかどうか」にあります。
卒業制作が「自分が作りたいもの」を形にするプロセスであるのに対し、商用案件は「他者が困っている課題」を解決するプロセスです。どちらが良い悪いではなく、得られる経験の性質が根本から異なります。
実務では制作以外の力も求められる
Webデザイナーやエンジニアとして現場に出たとき、私たちが向き合うのはパソコンの画面だけではありません。実際に仕事がスタートすると、コードを書いたりデザインソフトを動かしたりする時間と同じくらい、「それ以外の要素」に多くのエネルギーを割くことになります。
商用案件の現場において、未経験者が最初に直面するのは以下のような「実務ならではの制約」です。
自由ではないからこそ生まれる工夫
卒業制作では、自分の得意な表現や好きな色、使い慣れた技術だけを選んで構築することができます。しかし実務では、「クライアントが指定するサーバー環境」「限られた予算とスケジュール」「すでに存在するブランドカラー」といった厳格な枠組みが用意されています。その制限の中でいかに最大のパフォーマンスを発揮するかという、実践的な思考力が求められます。
コミュニケーションと要件定義
実際の現場では、クライアントが必ずしもITやデザインの専門知識を持っているわけではありません。「なんとなくおしゃれにしたい」「スマホで見やすくしたい」といった抽象的な要望を丁寧に噛み砕き、「つまり、こういう機能を実装するということですね」と具体的な仕様に落とし込むコミュニケーションが発生します。
スケジュール(納期)の管理
実務における納期は、単なる「提出期限」ではなく、クライアントのビジネスの開始日やマーケティング施策と連動した「約束」です。予期せぬトラブルが発生した際にも、いかにスケジュールを調整し、期日通りにクオリティを担保して納品するかという、プロジェクトマネジメントの視点が不可欠になります。
このように、現場で必要とされるスキルの半分以上は、実は「制作スキルそのもの」の周辺にあるコミュニケーションやディレクション、課題解決力なのです。
【参考】4教科+100日実践。厳しいマルチタスク留学がAIゼネラリストを生む
クライアント案件だからこそ得られる経験
では、実際にアクトハウスの生徒たちが体験する商用案件のプロセスを見てみましょう。ここでは、学校の課題では決して味わえない、ビジネスの本質的な4つのステップを経験することになります。
【商用案件の基本プロセス】
1. 実際のクライアントから依頼を受ける(ヒアリング・提案)
2. 納期や要件変更などの制約に対応する(プロジェクト管理)
3. チームで役割を分担して進める(チーム開発・ディレクション)
4. 納品して報酬を受け取る(価値の対価の獲得)
① 実際のクライアントから依頼を受ける
アクトハウスの後半期間、生徒たちは実際に自ら営業活動を行ったり、紹介を通じて案件を獲得したりします。ヒアリングシートを作成し、クライアントの要望を直接聞き取り、提案書や見積書を作成するステップは、まさにフリーランスや法人のビジネスそのものです。
② 納期や要件変更などの制約に対応する
プロジェクトが動き出すと、当初の想定通りにいかないことの連続です。
「制作の途中で、クライアントから新しい機能の追加要望が出た」
「実装しようとしたプラグインが、指定のサーバー環境で競合を起こして動かない」
こうした実務特有の「要件変更」や「技術的な壁」に直面したとき、どのように代替案を提示し、クライアントと合意形成(合意の上での仕様変更)を行うかという、リアルな交渉力が身につきます。
③ チームで役割を分担して進める
アクトハウスの案件期間は、個人だけでなく、ディレクター、デザイナー、エンジニアといったチームを組んで臨むケースも多くあります。
Git(ギット)などのツールを用いた実践的なコード管理はもちろん、「メンバーの進捗が遅れているときにどうカバーするか」「デザインの意図をどうエンジニアに正確に伝えるか」といった、チームビルディングや相互連携の重要性を肌で学ぶことができます。
④ 納品して報酬を受け取る
無事にクライアントのチェックをクリアし、納品が完了すると、その対価として実際に報酬(お金)が支払われます。
自分が作った制作物が世の中に出て、誰かのビジネスの役に立ち、その対価としてお金を受け取る。この「自分のスキルでお金を稼いだ」という原体験は、受講生の中に「私はもう学生や学習者ではなく、価値を提供するプロフェッショナル側に立っているのだ」という、強固な主体性とマインドセットの変化をもたらします。
アクトハウス後半100日間の実践期間
アクトハウスのカリキュラムは6ヶ月(約180日間)で構成されています。前半の3ヶ月間でプログラミング、デザイン、マーケティング、そして英語の基礎を徹底的にインプットし、後半の3ヶ月(約100日間)をこの商用案件の実践期間へと充てています。
この100日間は、一般的なスクールのように「教室で先生の解説を聞く」時間ではありません。常駐するプロのメンター(現役のエンジニアやデザイナー)のサポートを受けながら、実際の案件という名の「現場」に伴走してもらう期間です。
アクトハウスがこの後半100日間にこだわる理由は、「エラーの起きない温室で100回練習するよりも、1回のリアルなトラブルを乗り越える方が、ビジネスパーソンとして遥かに足腰が鍛えられる」と考えているからです。
もちろん、未経験からスタートする受講生にとって、実際の案件は決して簡単なことばかりではありません。思うように実装ができずに悩む日もあれば、チーム内での意見の調整に苦労することもあります。
しかし、そのすべての迷走や試行錯誤のプロセスに、プロのメンターがアドバイザーとして寄り添います。完全に一人きりでリスクを背負うフリーランスとは違い、「実戦の環境でありながら、適切なフィードバックとセーフティネットがある」という絶妙なバランスこそが、アクトハウス独自の100日間の実践環境です。
【参考】180日の修羅場。アクトハウスの1日のスケジュールと圧倒的な密度
商用案件経験がキャリアにもたらすもの
留学を終え、いざ就職活動やフリーランスとしての案件獲得に臨むとき、この「100日間の実務経験」は大きなアドバンテージとなります。
多くの採用担当者や発注者は、ポートフォリオを見るときに「綺麗に作られているか」だけでなく、「この制作物は、どういう背景や制約の中で作られたのか」というプロセスを知りたがっています。
卒業制作をはじめとする架空のサイトの場合、どうしても「自分がこの技術を使いたかったから作りました」という主観的な説明になりがちです。
一方で、商用案件を経験したポートフォリオであれば、以下のような具体的な「背景と成果」を添えてアピールすることが可能になります。
「このECサイトは、実際のクライアントから『スマホからの購入率を上げたい』という予算◯万円の依頼を受け、3人のチームで制作しました。私はフロントエンドの実装を担当し、表示速度を高速化するために画像の圧縮やコードの最適化を行いました。納品後、クライアントからはユーザビリティが向上したと感謝の言葉をいただいています」
どちらの説明が、採用担当者にとって「自社で活躍してくれそうなイメージ」を抱きやすいかは明白です。商用案件の経験は、あなたのスキルの「再現性」を証明する、何よりの客観的なデータ(Proof of Value)になります。
日本のIT業界やクリエイティブ業界への転職市場には、しばしば「実務未経験の壁」が存在します。「未経験可」の求人は選択肢が限られており、魅力的なプロジェクトの多くは「実務経験1年以上」などの条件がついていることが少なくありません。
アクトハウスの卒業生たちがキャリアにおいて一歩リードできるのは、留学期間中にその「実務経験の壁」をすでに突破し、次のステージのスタートラインに立っているからです。
まとめ:「卒業」ではなく「開幕」である
アクトハウスに「卒業制作」がない本当の理由。それは、ここでの半年間を「学校のお勉強の終わり」として位置づけていないからです。
綺麗にパッケージされた作品を作って満足し、そこで燃え尽きてしまうようなゴールは設定していません。実際の案件を通じて、ビジネスのリアルな難しさと、それを遥かに上回る「自分のスキルが誰かの役に立ち、対価を得られる面白さ」を体験し、確かな手応えを持った状態で社会へ飛び出してほしいと考えています。
「これは私が実際のクライアントと作り上げたサイトです。今もウェブ上で動いています」
就職面接の場で、あるいは新しい案件の提案の場で、そう胸を張って言えるURLを自分の手の中に持っていること。それこそが、180日間の留学生活をやり遂げたあなたの、誰にも奪われない「本物の自信」という武器になるはずです。
そんなアクトハウスについての疑問は『アクトハウスQ&A「20の誤解」。検討者の疑いを晴らす「NO」の真実』もチェックしてみてください。
著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成に従事。