2026.06.11
起業したいわけじゃない。でも、会社員を続けたくはない。
その違和感はかなり普通になっている
「将来、起業したいですか?」と聞かれると、明確に「イエス」とは言えない。
「では、今の会社や仕事が不満ですか?」と聞かれても、決定的な拒絶があるわけではない。
しかし、今の働き方のままで次の10年を過ごす自分を想像すると、どうしてもそこに肯定的なイメージを持てない。
こうした、拒絶ではないものの、確実な違和感を抱えているビジネスパーソンは、ここ数年で急激に増えています。この感覚は、決してキャリアに対する甘えでも、一時的な迷いでもありません。多くの人が同じように感じていながら、まだ適切な言葉で表現されていないだけの、現代におけるごく一般的な心理です。
なぜ、私たちはこれほどまでに「今のままでいいのだろうか」という、輪郭のぼやけた不安を抱いてしまうのでしょうか。その背景には、キャリアの選択肢が時代の変化に追いついていないという構造的な問題があります。
昔は「どちらか」を選べばよかった
かつてのキャリアの選択は、非常にシンプルでした。
誰もが知る大企業や安定した組織に入り、その中で着実に階段を上っていく道。もしくは、自らリスクを背負って会社を立ち上げ、独立した経営者として勝負する道。
キャリアとは基本的に、この二者択一のどちらかでした。
「安定か、挑戦か」「組織か、独立か」。それぞれのルートに明確なメリットとデメリットが存在し、自分の性格や価値観に合わせて、どちらのレールに乗るかを決めればよかったのです。進むべき方向が単純だったからこそ、迷いもまた単純で済みました。
しかし現在、この二極化した選択肢のどちらを眺めてみても、どこか「しっくりこない」と感じる人が増えています。
今はどちらも「しっくりこない」
なぜ、起業か会社員かという従来の二択が機能しなくなっているのでしょうか。それは、現代の視点から見ると、どちらの選択肢も極端すぎるように映るからです。
まず、起業という選択は多くの人にとって「重すぎ」ます。
人を雇い、資金を調達し、経営者としての重大な責任を背負い続ける。それは一部の限られた素養を持つ人向けの生き方であり、自分が求めている生活のバランスとは違うと感じるのが自然です。
一方で、従来の会社員という働き方は「限定されすぎ」ています。
ガチガチに固定された役割、狭い意思決定の範囲、そして組織の外に出づらい構造。どれだけ優秀であっても、組織の歯車として最適化されるだけの環境に、生涯を預けることへのリスクを無視できなくなっています。
起業家になりたいわけではないが、かといって、可能性を狭められた会社員のままで終わりたくもない。じつは最近、こうした二極化の間に位置する新しい働き方を象徴する言葉として、「FDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)」という概念も登場しています。彼らは、まさにこの「どちらも極端に見える」という課題をクリアする動き方をしています。
本当に起きているのは「職業不安」ではない
ここで多くの人が勘違いをしてしまうポイントがあります。この違和感を「自分の仕事がAIに奪われるのではないか」「会社が倒産するのではないか」という、いわゆる職業不安と混同してしまうことです。
しかし、不安の正体は「仕事がなくなること」ではないのです。
もっと手前にある、小さな、しかし無視できない違和感。それは、「日々の仕事において、自分の意思で選択している感覚がない」という状態そのものです。
どんなに待遇が良く、人間関係が良好な職場であっても、会社から与えられた役割をただこなしているだけでは、自分のキャリアをコントロールしている実感が得られません。私たちが本当に恐れているのは、経済的な困窮ではなく、自分の意思を挟む余地のないまま時間が過ぎていくことなのです。
欲しいのは「起業」ではなく「移動可能性」
私たちが本当に求めているのは、新しい組織を立ち上げるような「起業」ではありません。また、今の会社を今すぐ辞めたいという衝動でもありません。
本当に手に入れたいのは、「移動可能性(モビリティ)」です。
「この会社でしか働けない」
「この職種しか経験がない」
「この働き方に依存するしかない」
そうした、逃げ道のない状態に自分を追い込みたくないのです。
仮に今の会社に残るとしても、「いつでも外に出られるチケット」を持った上で、あえて自分の意思でここに残っていると思いたい。いつでも別の領域や組織に移動できるという「選べる状態」こそが、現代のビジネスパーソンにおける真の安定の定義になっています。
会社員でもフリーランスでもなく「混ざった状態」
現実を見渡してみると、時代を先取っている優秀層は、すでに起業か会社員かという二択の枠外に身を置いています。彼らの働き方は、綺麗に分類することができません。
会社員としてメインの職務を全うしながら、個人で複数の副業をこなす人。
エンジニアとしての高い技術力を持ちながら、マーケティングやビジネスモデルの構築に深く関わる人。
デザイナーの視点を持ちながら、新規事業の開発を実質的にリードする人。
フリーランスという立場で柔軟に動きつつ、特定のプロジェクトではチームの運営を任されている人。
ここにあるのは、組織と個人の境界、技術とビジネスの境界が曖昧に「混ざった状態」です。彼らはどこにも完全に所属せず、同時にどこにでも関われる柔軟性を持っています。
「FDE的な働き方」がもたらす選択肢
こうした、領域をまたぎながら移動可能性を最大化していく動き方を、私たちは「FDE的な働き方」と呼んでいます。
FDEの本質をざっくり説明すると、「作る人」と「決める人」の間に立ちながら、両方を動かすことです。技術の専門家として自閉するわけではなく、コンサルタントとして机上の空論を語るわけでもない。エンジニアでもない、コンサルでもない、けれど両方の言葉がわかり、その境界線を自在に行き来する存在です(詳しい定義や詳細については、別記事で解説しています)。
ここで重要なのは、やはり「FDE」という職種名そのものではありません。特定のラベルを目指すべきだと言いたいのではないのです。
注目すべきは、彼らが実践している「自分の専門領域に閉じこもらず、境界線を越えて動く」という、姿勢そのものです。
【参考】職種を1つに絞るのが怖い人へ。10年後も迷わない「FDE」という選択肢
会社に残る人と、外にも出られる人の差
これからの時代、一つの組織に埋没してしまう人と、いつでも外の世界に出られる人の間には、どのような差が生まれるのでしょうか。
それは、持っているスキルの量の差ではありません。ましてや、生まれ持った才能の差でもありません。違いはただ一つ、「自分が与えられた役割の外側に、一歩踏み出せるかどうか」だけです。
「自分の担当はここまでだから」と境界線の内側に引きこもる人は、組織の都合に合わせてキャリアが固定されていきます。一方で、職種や組織の境界線を越えて、隣の領域の問題解決に首を突っ込んでいける人は、どこに行っても通用する普遍的なスキルが磨かれ、自然と選択肢が増えていきます。結果として、後者だけが「移動可能性」を手にすることになります。
これからは「所属」ではなく「可動性」
これからは「プログラミング」「デザイン」「ビジネス」「英語」といった複数の領域がどのように繋がり、どう影響し合っているのかを構造的に理解し、領域間の境界線を自由に越えられる人材が圧倒的に強くなります。アクトハウスが4つの領域を統合して提供している理由もここにあります。一つのスキルに依存しないからこそ、自らの立ち位置を柔軟に変えながら価値を提供し続けることができるのです。
これからのビジネスパーソンにとって、最も価値のある資産は「どこに所属しているか」ではなく、「どこまで動けるか」という可動性の高さになります。
必要に応じて、他の会社へ転職できる。
自らのスキルを活かして、外部で副業ができる。
チャンスがあれば、独立して生計を立てられる。
そして、それらの選択肢を持った上で、今の会社に残り続けて貢献することもできる。
これらの状態をグラデーションのように同時に持ち合わせ、状況に応じて自分の重心を移動させられること。それこそが、これからの時代における理想的なキャリアのあり方です。
【参考】スキルの切り売りを卒業する。Z&Y世代のキャリアに「FDE」が良い理由
結論:会社員を続けながら、会社員だけではなくなる
起業したいわけではない。でも、今の会社員をただ続けるだけでは何かが違う。
あなたが抱いているその違和感は、キャリアに対する未熟さでも、我が儘でもありません。むしろ、従来の固定化された働き方の限界を敏感に察知しているからこそ生まれる、次の時代の働き方への入口です。
「どこで働くか」という場所の議論から、「どう動けるか」という可動性の議論へ。キャリアの軸足は、今明確にシフトしています。
起業する必要はありません。ただ、自分のキャリアを会社だけに預ける必要もありません。求められているのは、会社員を続けながらも、会社員という枠だけに閉じこもらない「FDE的な動き方」を身につけることです。
これから価値を持つのは、所属先ではなく、自分がどこまで動けるかです。自らの専門性に立脚しながらも、その境界線を越える一歩を踏み出すこと。それこそが、不条理な不安を解消し、自らのキャリアの主導権を取り戻すための、確かな第一歩となります。
〜AI時代の「FDE」という新しい選択肢〜
こうしたAI時代に求められるFDE人材を育成しているアクトハウスの具体的な学習環境や、カリキュラムに関するリアルな疑問については、『アクトハウスQ&A「20の誤解」。検討者の疑いを晴らす「NO」の真実』をあわせてチェックしてみてください。検討時に抱きがちな懸念や、スクールの仕組みについての理解がより深まるはずです。
著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成=「+180 ビジネステック留学」の戦略・運営を主導。