2026.05.19

新興国のマーケティング戦略4選。インドやケニア、ブラジル、サウジの例

Marketing / Strategy

新興国のマーケティング戦略4選。インドやケニア、ブラジル、サウジの例

アメリカでも欧州発でもない、マーケティング技法

現代のマーケティング教科書の多くは、欧米の豊かな成熟社会、あるいは高度に整備されたインフラをベースに構築されています。

コトラーの4P、パーパスブランディング、UXデザインなどなど。

これらは確かに強力ですが、一歩マクロな視点に立つと、これらが全く通用しない巨大な市場が世界には存在します。

インフラが未整備で、独自の文化圏を持つ新興国では、先進国の飽和した市場とは全く異なるロジックの「独自のマーケティング・戦略理論」が発展するのをご存知でしょうか。

今回は、アメリカでも欧州でもない、他国で生まれ、圧倒的な成果を上げているユニークな4つのマーケティング戦略を解説します。

【インド】「ジュガード(Jugaad)」による破壊的イノベーション

限られた資源で最高の解決策を「即興」で作る

インドビジネスを語る上で欠かせないのが、独自の概念である「ジュガード(Jugaad)」。

これは一言で言えば、「手元にある限られた資源を工夫し、泥臭く、かつ迅速にイノベーションを起こす」という思考法を指します。

欧米型のマーケティングや製品開発は、「莫大なR&D(研究開発)費用と時間をかけ、完璧なプロダクトを作り込んでから市場に投入する」というステップを踏みますが、ジュガードはその真逆。予測不能な環境下で、まずは動くものを最速で形にするアプローチです。

ユニークな事例:マルチ・スズキの圧倒的シェア

インドの自動車市場で不動のトップシェアを誇る「マルチ・スズキ」は、まさにこのジュガードの精神を戦略に組み込んでいます。

☑️背景
インドではインフラの未整備、悪路、そして予期せぬトラブルが日常茶飯事。

☑️戦略
高機能で複雑な欧米車に対抗し、同社は「構造がシンプルで壊れにくく、万が一故障しても、町中にある個人経営の小さな修理屋にある部品で、10分で直せる車」を低価格で提供し続けた。

Marketing/Strategyの視点

完璧な製品を時間をかけて作るのではなく、「市場の不完全さに合わせて、今あるアセットで最速の解決策を提示する」というアジャイル型の市場浸透戦略です。

【ブラジル】「リレーショナル・キャピタル(関係性資産)」と集団的購買

個人主義の4Pを壊す「ハイパー・コネクテッド・コミュニティ」

欧米のマーケティングは「個人のインサイト(潜在ニーズ)」を徹底的に掘り下げますが、ブラジルでは事情が異なります。この国では「コミュニティ(家族・友人・地域)の承認と関係性」が、個人の購買決定において絶対的な軸となります。これをリレーショナル・キャピタル(関係性資産)戦略と呼びます。

ブラジルはSNS(特にWhatsAppやInstagram)の利用時間が世界トップクラスに長く、信頼する身内からのレコメンドが、企業のいかなるマス広告よりも強い効力を持ちます。

ユニークな事例:Magazine Luiza(マガジン・ルイザ)の「マガ・セ・ボセ」

ブラジルの大手小売チェーン「Magazine Luiza」は、この国民性をデジタルに完璧に落とし込みました。

☑️戦略
同社は「Magaalu e Você(マガ・セ・ボセ:マガジンとあなた)」というプラットフォームを構築。これは一般ユーザーが誰でも、スマホ一つで「自分専用のデジタル店舗(ミニECサイト)」を5分で開設できるシステム。

☑️仕組み
ユーザーは自らの店舗にMagazine Luizaの商品を並べ、自分の家族や友人のWhatsAppグループに向けて「これ、うちの店で買った方がいいよ」と紹介。そこから購入されれば、ユーザーに手数料が入る仕組み。

Marketing/Strategyの視点

BtoC(企業から個人)の直販を強化するのではなく、企業がコミュニティの「ハブ」となる個人にインフラを提供し、CtoC(個人間)の信頼関係の熱量で売るという、超・関係性依存型の流通戦略です。

【ケニア】「リープフロッグ(カエル跳び)」とエコシステム・マーケティング

既存インフラのなさを逆手に取った「生活プラットフォーム化」

アフリカ、特に東アフリカの経済を牽引するケニアを中心に発展しているのが、固定電話や銀行口座という「先進国が辿ったステップ」をすべて飛び越えるリープフロッグ(Leapfrog:カエル跳び)現象を前提としたマーケティングです。

ここでは、単一の便利なプロダクトを売る(既存の不満を解消する)アプローチではなく、「存在しない社会インフラをブランドが自ら代替する」という、よりマクロな視点が必要となります。

ユニークな事例:Safaricomのモバイルマネー「M-Pesa」

ケニアの通信キャリアであるSafaricomが展開する「M-Pesa(エムペサ)」は、その世界的な成功例です。

☑️背景
ケニアでは、地方に住む家族への送金ニーズが爆発的に高かった一方、物理的な銀行口座を持つ一般市民はごくわずかだった。

☑️戦略
同社は銀行を作ろうとするのではなく、ガラケーでも使える「SMS(ショートメッセージ)を利用した送金システム」を開始。これが爆発的に普及すると、単なる決済ツールを超え、電気・水道代の支払い、商店での買い物、さらにはM-Pesaの利用履歴をスコアリングとした「マイクロローン(小口融資)」へとサービスを拡張した。

Marketing/Strategyの視点

欧米的な「顧客のPain(痛み)を消す」部分最適なビジネスではなく、「不在であるインフラそのものになり代わり、生活の前提(Platform)としてユーザーをロックインする」という、エコシステム構築戦略です。

【サウジアラビア】「ハラール・アイデンティティ」から「バリュー・ドリブン(価値観駆動)」への昇華

集団の文化的プライドや国家的ビジョンへの同調

中東、特にサウジアラビアにおける現代のマーケティングは、「ハラール(宗教的許容)」や「タブーの回避」という従来の守りの姿勢から、国家改革(ビジョン2030)に伴う「次世代のアラブ・アイデンティティの体現」という攻めの戦略へとシフトしています。

急激な近代化とサウジ化(自国民雇用の促進)が進む中、消費者は単に「製品が優れているか」だけでなく、「そのブランドは、自分たちの国の未来や誇りを代表しているか」を基準に選別し始めています。

ユニークな事例:アル・マライ(Almarai)のブランド戦略

中東最大の乳製品・食品メーカーである「Almarai」は、この激動する価値観を捉えたブランディングを行っています。

☑️戦略
同社は一般的な「美味しさ」や「新鮮さ」を訴求する食品広告の枠を飛び越え、サウジアラビアの女性の社会進出や、砂漠という過酷な環境での持続可能なハイテク農業など、「国の進化と国民のプライド」を映画のようなクオリティでストーリー化。徹底して「サウジの未来を共に作るパートナー」としてのポジションを確立した。

Marketing/Strategyの視点

欧米的なベネフィット(利便性や個人の自己実現)のロジックではなく、「集団の文化的プライドや国家的アイデンティティとブランドを完全に同調させる」という、マクロな価値観駆動型(Value-Driven)のブランディング戦略です。

まとめ:これからの戦略に必要な「非・欧米視点」

これら4つの国々で磨かれた戦略に共通するのは、「先進国の成功体験(リッチなリソース、整ったインフラ、個人主義、確立されたマスメディア)」を前提としていないという点です。

 

☑️資源がないなら、即興で工夫する(インド)

☑️個人に売るのではなく、関係性に組み込んでもらう(ブラジル)

☑️インフラがないなら、自らインフラになる(ケニア)

☑️個人の利欲ではなく、集団の誇りに訴えかける(サウジアラビア)

 

成熟しきった市場でゲームのルールを変えたいとき、あるいは新たなパラダイムで市場を開拓したいとき。

私たちが目を向けるべきは、こうした欧米以外の国々で実践されている「泥臭くも合理的なマーケティング理論」なのかもしれません。

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著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成=「+180 ビジネステック留学」の戦略・運営を主導。

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