UI/UXの次は「CX(顧客体験)」。デザインを経営視点で語れるか

「UIは綺麗だし、UXも悪くない。でも、なぜか客が離れていく」。
アプリやWebサービスの開発現場で、こうした不可解な現象が起きることがある。
ボタンの配置は問題らしきは見受けられず、遷移もスムーズ。Figma上のデザインには曇りはない。
それなのに、ユーザーは定着せず、LTV(顧客生涯価値)が伸びない。
なぜか。それはデザイナーやプロダクトマネージャーが、画面の中の出来事(UI/UX)だけに固執し、その外側にある「CX(Customer Experience:顧客体験)」を見落としているからである。
数値化できないもの、今日が正解でも来月には変わるもの。それがCXである。
これからの時代、デザインを「色や形」としてではなく、「経営課題を解決するソリューション」として語れないクリエイターは、ただの作業者へと降格していく。
今回は、UI/UXの枠を飛び出し、ビジネス全体を設計する「CX」の視座について解説する。
画面の外側にも「デザイン」はある
UIとUX、そしてCXの違いを、カフェで例えてみよう。
■UI(接点):
カップの美しさ、メニュー表の見やすさ。
■UX(体験):
コーヒーの味、椅子の座り心地、注文のスムーズさ。
■CX(関係性):
入店時の挨拶、店内の匂い、帰宅後に届くサンキューメール、困った時の店員の対応。
デザイナーの多くは、カップ(UI)とコーヒーの味(UX)を磨くことに命をかける。 しかし、顧客がその店を「愛するかどうか」を決めるのは、実は「店員の笑顔」や「トラブル時の誠実な対応」だったりする。
Webサービスも同じだ。 どれだけアプリの使い勝手が良くても、問い合わせメールの返信が遅かったり、解約手続きが複雑で不親切だったりすれば、CXは最悪となり、ユーザーは二度と戻ってこない。
「アプリを使っている時間」以外のすべての接点を含めてデザインすること。それがCXの正体だ。
KPIを「クリック率」から「LTV」へ変えろ
「このボタンの色を変えれば、クリック率(CTR)が上がります」。 これは現場(UI/UX)の会話だ。
「このオンボーディング体験を改善すれば、解約率(Churn Rate)が下がり、LTVが向上します」。 これが経営(CX)の会話だ。
経営者が知りたいのは、「そのデザイン修正でいくら儲かるのか?」という一点に尽きる。 ピクセル単位のこだわりや、フォントの美しさは、悲しいかな彼らにとっては”わからない”要素である。
それらが最終的にどうビジネスの数字(売上、利益、継続率)に貢献するのかを翻訳して伝える能力。 これこそが、デザインを経営視点で語るということ。
「使いやすい」で満足するな。「儲かる仕組みになっているか」を問え。
アクトハウスがデザインだけでなく、Art&Scienceの概念の拡張でビジネスやマーケティングを教える「+180 ビジネステック留学」である理由はここにある。
数字の読めないデザイナーは、経営のテーブルにつけないからだ。
サービス全体を俯瞰する「青写真」を描け
CXを向上させるためには、Adobeのソフトを触っているだけでは不十分。 必要なのは「サービスブループリント(Service Blueprint)」を描く力。
ユーザーが広告を見て、サイトを訪れ、購入し、商品が届き、サポートを受け、ファンになる。 この長い旅路(カスタマージャーニー)の、どこに「感情のピーク」を作り、どこで「不満」を解消するか。
「購入完了メールの文面は、事務的すぎないか?」 「梱包の箱を開けた瞬間、驚きはあるか?」
これら一見デザインとは無関係に見える領域まで口を出し、全体の一貫性をコントロールする。 そこまでやって初めて、あなたは「Webデザイナー」から、事業を成長させる「CDO(Chief Design Officer:最高デザイン責任者)」候補へと進化する。
Figmaの外へ飛び出せ
モニターに向かっていても、CXは見えてこない。 自分のサービスのサポートセンターに届くクレームを読んでみる。 競合他社の製品を実際に購入し、解約までしてみる。
本当のデザインのヒントは、Figmaのアートボードの外、ドロドロとした顧客のリアルの現場に転がっている。
美しい画面を作るのはAIでもできる時代が来る。 しかし、人の感情の機微を読み取り、ビジネス全体を設計して「感動」を生み出すCXデザインは、人間にしかできない聖域だ。
視座を上げろ。デザインは、経営そのものなのだから。
著者:清宮 雄(アクトハウス代表) 起業家・ブランドアーキテクト。2014年にセブ島でIT留学の草分けアクトハウスを設立。「ビジネス×テック」をテーマに、時代に左右されない強靭な個の育成=「+180 ビジネステック留学」の戦略・運営を主導。

















