ハワイで逮捕者60名。史上最大・天体観測プロジェクトの結末は―。

一見、約束通りでも、モメることがある。

火種はみるみる大きくなっていく。

「話がちがう」

「そういうことじゃない」

ハワイで論争を呼ぶ、史上最大の天体観測プロジェクト。逮捕者60名にも及んだ波乱の展開は、どこへ向かっていくのか―。

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(写真:建設イメージ。口径30mの望遠鏡「TMT」)

とある山の頂で、2つの希望が食い違っている。

「神々が住む山」を守りたい先住民。

「宇宙の神秘」に迫りたい世界各国。

史上最大の望遠鏡建設を巡っての論争だ。
 


 
【それは約束通りか】

先住民が自らのルーツとして崇めるマウナ・ケア山。この山は民族の聖域であり、誇りの象徴である。しかし、その頂にはすでに「13個」の巨大望遠鏡が鎮座している。

「母なる山を守れ」

先住民たちの固い願いのもと、ハワイ州にて「山頂には13個以上、望遠鏡をつくらない」という取り決めが制定された。

だからこそ「14個目」の建設が発表されたとき、先住民の怒りは爆発した。

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レンズの口径が30メートルにも及ぶ史上最大の望遠鏡。「もうひとつの地球を探す」という夢のプロジェクト。

日本・アメリカ・カナダ・中国・インドといった錚々たる国々の協賛で、この計画はスタートした。しかし山頂は13個の望遠鏡で「満員」だ。なのになぜ、14個目の建設がスタートしたのか?

そのロジックはこうだ。

「今回、新しい望遠鏡は作るけれど、古い望遠鏡をひとつ壊す。だからトータルは13個である」

確かに総数は合っている。しかし。
 


 

「これ以上、山に触れないで」
「十分な話し合いがされていない」
「数が合ってればいいわけではない」

建設阻止の運動で逮捕者は60名以上にも及んだ。

望遠鏡建設は、一夜にして終わるほど簡単な工事ではない。施工のための道路が引かれ、人やモノの往来、資材の処理など、大きなものから小さなものまで、さまざまな事象が発生する。

これ以上、ハートをえぐり返されるのに耐えられえない先住民が、これまでの我慢を爆発させたのだ。

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【認識のちがいか、レトリックか】

反対運動の核となっているのは、自分たちの聖域にこれ以上建造物を増やしたくない、先住民たちの叫びである。

しかしこの怒りが大きく、しかも長期的に拡大したのは、彼らの心情として「不意をつかれた」という《気持ちの問題》にあったのではと推察する。

「望遠鏡は最大13台まで」

一見、こういった「数の規定」はシンプルでわかりやすい。しかし総数をキープするからといって、何度も掘り返される側の《気持ちの問題》まで深く読み取っていなかったのだろう。

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こういった「一気に吹き出す怒り」は、会社内や日常の人間関係においてもよくあることだ。

これには、問題そのものよりも、もっと以前の《根っこのモヤモヤ》が起因している。「聞いてなかった」「前はこっちが譲歩した」「軽視された」「最初から嫌だった」「なんか好きじゃない」。他人が聞いたら「そんなにカリカリしなくても」というものでも、本人にとっては積み上げてきた我慢の量がちがう。小さな不満ほど、乾燥しきっている。火花が散れば引火する。

日常のフラストレーションは、大げさに表明するには事足りない。だから、ギリギリまで爆発の気配もない。しかしあるタイミングでスイッチが入った瞬間「いい加減にしろ!」と、突然の叫び声に変わる。

反対に、怒りを喰らった側は寝耳に水だ。

「何をそんなに」「急に言われても」「言ったのに」と、冷静に困惑する。この温度差がさらに争いを醜くしてしまう。

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夕陽に映える、宇宙を見つめる望遠鏡。雲海に佇むそれらは、見る人によってその見解を大きく変えている。

《他者の気持ちになって》

《相手の立場になって》

よく聞く言葉だが、こんなハードルの高いことはない。

今日もきっと世界中で、国と国で、会社内や友人間で、姉妹や兄弟で、夫婦や恋人同士で、ネット上や町中で、人間同士の争いやすれ違いは絶えず、むしろ意見が合致することのほうが少ないだろう。

銀河の夢を追いかけるはずの「望遠鏡ひとつ」でもそうだった。

同じ山頂からでも、見たい風景は異なった。しかも遥か昔から。

争いが沸点に達した2015年末、ハワイ州最高裁判所は「建設無効」の判決を下し、史上最大の望遠鏡計画は停止した。

最初の公聴会から7年、先住民の願いが星に届いた瞬間だった。
 

【著者「IT・英語・ビジネス留学」アクトハウス:清宮 雄】

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