世界で最も「ロックでクールな会社」はバーモント州にあった。

スーパーのアイスクリーム売り場にその商品はあった。

チェリー味のアイスには、こう書いてある。

Cherry Garcia(チェリー・ガルシア味)

このネーミングにピンと来るのは、ロックの歴史を知っている人だろう。この名前は、1970年代の代表的バンド「グレイトフル・デッド」のリーダー「ジェリー・ガルシア」に由来している。このバンドのロゴマークのインパクトは、バンド結成から半世紀経った現代においても、スケーターやストリート系ファッションのフォロワーからも一目置かれていることでも有名だ。

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まさに70年代のヒッピー文化を軸とする、キワモノバンドのリーダーの名前を「アイスの名前」で文字ってしまうとは、この会社はいったい何なのか。

その会社は「ベン&ジェリーズ」。

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アメリカはバーモント州、サウス・バーリントンに本社を構えるアイスクリームのブランドだ。アイスクリームと言えば、ファミリー向け、スイーツファン向けの代表格で、キャッチーなイメージを求められるBtoC商品。薄利多売の商品でもあるため、コンビニのアイスコーナーでも「万人ウケ」そして「無難」なデザインしか見ることがない。

そのなかにおいて、この「ベン&ジェリーズ」のブランド戦略は「自由奔放」「ラブ&ピース」の象徴であった70年代のスピリットを、この現代において嬉々と貫いている。しかもそのデザインは、

◉子供から見たらとっつきやすく(0〜19歳)
◉大人から見ても安心でき(20~50歳)
◉70年代の青春世代をニヤリとさせる(60歳以上)

そんな、全世代をつかむ奇跡のデザインを実現しているのだ。

会社のイメージキャラクターは乳製品の王道アイコンとも言える「牛」。パッケージは毎回底抜けに明るく、カラフルでかわいいイメージを徹底している。しかし、よく見るとこの牛には「妙な沈黙」が漂っているように見えないだろうか。

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単純に「かわいい」とは言い切れず、限りなく無表情。かわいくしたいなら、目鼻立ちをデフォルメするなど、いくらでもやり方はあるはずだ。

そう考えると、この牛のイメージは、70年代アートの代表格・イギリスのデザイン集団「ヒプノシス」の代表作から引用されていると考えるべきだろう。ギネス記録のセールスを誇るバンド「ピンク・フロイド」のアルバム「原子心母」にて、この牛は登場している。牛の体の模様は世界地図のようにも見え、この牛もまた同様に無表情だ。

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また、ド派手なまでにカラフルなアイスのパッケージは、70年代のファッション、世界観、死生観を表現しており、ここにも同社の遊び心がふんだんに散りばめられている。同社のブランディングにて徹底されているキャッチーすぎる配色は「突き抜けていた70年代」のイメージそのものだ。

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2000

1999

これらの大胆な配色と、原色を惜しげも無く投入する70年代のファッションは著しく共通する。愛と平和と自由を訴えた「フラワーチルドレン」のスタイルは、ベン&ジェリーズそのものだ。

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そして同社のベストセラー商品であるアイス「WAVY GRAVY」は、70年代の伝説的ロックフェスティバル「ウッドストック」のパーソナリティである人物名に由来しているという。確信犯的に、そして徹底的に、製品を通して自分たちが楽しむことを忘れていない。

1993

この「ベン&ジェリーズ」の創設者であるベン・コーヘンとジェリー・グリーンフィールドは、まさにこの70年代に青春を過ごし、その日々を永遠に焼き付けるべく、アイスクリームというフィルターを通して、自らの人生をそこに表現したのだろう。それほどまでにこだわりたくなる70年代とは、さぞかしクレイジーでロックな時代であったのだと思う。

「起業」とは、その人物を写す鏡であり、その人の人生そのものである。ベン&ジェリーズの両名によって定義された同社の「70年代スピリット」は、現代においてなお、揺らぐことなく、その輝きを増している。そしてブランドイメージだけでなく、その品質にもこだわることで、世界中でファンを獲得し続けている。

1978年、ガソリンスタンドの跡地で、借金して始まった1号店から38年。ベン&ジェリーズは、いまや世界27ヶ国以上・800店舗を超えるメガブランドへと成長した。なお、日本上陸時のキャッチコピーは、ラブ&ピースの70年代を彷彿とさせる「Peace,Love&Ice Cream!」であった。初心忘るべからず。どんなに有名になっても、ノリはブレずに70年代なのだ。

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会社を起業し、商品を売りたいのであれば、社長が自社のナンバーワンのファンにならなければならない。徹底的にこだわり、誰よりも楽しみ、愛情を注ぎ続ける。時代に埋もれないよう器用に立ち振舞い、けれども時代に流されない、そんな強い心が経営には必要だ。

ベン&ジェリーズのブランディングには、近年その栄華を極めるIT企業たちにはない「味」がある。「新しいことだけが、かっこいいわけではない」という余裕さえも感じさせる。

そのマイペースでしかも緻密なマーケティングは、アイスクリームのそれよりも限りなく”クール”でかっこいい。
 

▶︎著者:清宮 雄 プロフィール
フィリピン・セブ島在住。IoTそしてA.I.時代の国際的な起業家・ビジネスパーソンを育成するIT留学「アクトハウス」代表。メンターとして現場でも奮闘中。アクトハウスの体験談はこちら >>>

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